年末年始に読んでおきたいアイドルマスターの短編小説8選
「それほど居心地はわるくないからね。たしかにりっぱな人間には会えないが、りっぱな人間なんかに会いたいとは思わない」
――レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
立派な人間による短編小説の紹介だと思って下さい。どうもサイトロです。
さて年末です。つまりは年始も近いですね。何かとスマホを触っているしかない状況が度々あることでしょう。親戚と特番を見ているしかない時や、長距離の移動中等等。そんな時間のお供に、と思いましてアイドルマスターの短編小説を8作ご紹介します。早速ラインナップをどうぞ。
1. 今はまだない
3. 人類の人
4. 聖なる働き者たちの冒険
5. 捨てるもの、与えるもの
6. 秋日にたゆたう
7. さよなら皇帝
8. 雪に変われ
【あらすじ】
律子さんプロデュースによる、テレビ収録の見学。
私・七尾百合子は雪歩さんの後ろをついていく。
その背中に、言葉に、アイドルを見る。
私は、今は未だ。
【登場人物】
七尾百合子
萩原雪歩
秋月律子
松田亜利沙【推薦コメント】
『七尾百合子のミステリな日常』シリーズ第三弾。ミステリの要素は薄めで、今回はテレビという劇場の外にある戦場での、密やかな戦いを描いた一作。劇場のように、隣り合う共演者は必ずしも味方とは限らない。そんな、時に悪意が飛び交う世界にて、先輩でとして堂々と立ち振る舞う律子と雪歩の頼もしい姿が光る一作です。
【あらすじ】
神保町で道に迷った七尾百合子は、或る古書店に巡り合う。
そこで出会うは、前髪で顔を隠す書店員。彼女は百合子に謎を与える。
四つの書名が導く場所にて、明日会いましょう。
そうして、前髪の奥で彼女は微笑む。
【登場人物】
七尾百合子
前髪の長い書店員、或いは鷺沢文香?
【推薦コメント】
第四弾に『四つの署名』(コナンドイル原作のミステリ、シャーロックホームズが主役)のオマージュをするとは見事です。こちらは前作と比べミステリ重点。本のことを喋る快活な百合子さんがかわいいですね。
余談ですが、本作を読んだ後、オマージュとして一作書きました。似非ミステリです。
【あらすじ】
夏。
篠宮可憐と所恵美の夏。
二人で夏祭りのショーに出演したり、それぞれ仕事をこなしたりの、夏。
涼しいような、暑いような。ゆったりとした時間の一幕。
【登場人物】
篠宮可憐
所恵美
【推薦コメント】
外見ではおどおどしている様が印象的な篠宮可憐だって、内心では色々考えていて、時には憤りを感じている。そんな当たり前のことに気付きつつ、恵美さんととりとめのない話をする、その空間が好きです。ショートフィルムや輪ゴム工場のキャンペーンといった、ありそうでなさそうとも思える仕事の内容もいいですね。
【あらすじ】
JR大阪駅にて、アイドルたちは分かたれた。
(七尾百合子の京都ぐるぐる案内)
七尾百合子は和紙作り体験のレポート。
漉いて束ねて冊子となりて、贈る相手は……。
(聖なる働き者たちの冒険)
高山紗代子と北沢志保はのんびり京都観光。
舌に満ちるはおはぎの甘さ。
頭を過ぎるは赤、朱、紅……。
京都にて、瑞々しい夏が過ぎゆく。
【登場人物】
七尾百合子
高山紗代子
北沢志保
プロデューサー
【推薦コメント】
七尾百合子・高山紗代子・北沢志保の三人ユニットによる京都旅行(影みたいなプロデューサーさんは付き添い)。電車を使い、駅を過ぎ、実在する場所にアイドルたちが居て、それぞれ思うところありながらその顔にはほほえみがある。穏やかな幸せいっぱいの物語でした。
【あらすじ】
あらゆるものを、西園寺琴歌は贈った。
あらゆるものが、クラリスから離れた。
故に、西園寺琴歌は日記を綴り、問う。
何を渡せば、貴女の手に残るのですか、と。
【登場人物】
西園寺琴歌
クラリス
【推薦コメント】
西園寺さんもクラリスさんも分け与えることをためらわない人で、だからこそ最後に渡すプレゼントは分けられないものを選べたんでしょう。実在する名詞を挟むことで、アイドルの実在性、存在感が色濃く現れていたお話でした。
【あらすじ】
秋の真ん中で、ページをめくる音が二つ。
読了へと意気込む静香と、
それを見守るプロデューサー。
二つの体はゆっくりと寄り添い合う。
【登場人物】
最上静香
プロデューサー
【推薦コメント】
『秋を満喫! ミリオンオータムフェア』のアフターストーリー。読書ってじっと集中していても眠たくなる時がありますよね。最上さんにもそんな一面があって、眼鏡姿でたゆたう様がとてもかわいらしいですね。
www.pixiv.net【あらすじ】
コウテイペンギンと一緒に撮影したアイドルは、必ずブレイクする。
そんな伝説のある鳥類園にて、PRポスターの撮影は始まる。
来週には、閉園してしまう鳥類園にて、始まる。
謎に、伝説に、お仕事に、高垣楓は挑む。
【登場人物】
今井加奈
高垣楓
プロデューサー
【推薦コメント】
アイドルとミステリを絡めることで、あのトリックの動機や展開が見事な形で成立していました。探偵・高垣楓という普段のクールなイメージをより鋭く強めるような位置づけも良いです。加奈ちゃんの軽快な語りがとても読みやすく、真相を暴きたい心意気とせめぎ合ってしまう良作です。
【あらすじ】
ささやかなお祝いがほしいんです。
いつかの約束を叶えた時、田中琴葉は舞台から姿を消していた。
アルコールは眼差しに艶を与え、振り返る過去は眩しく見える。
これは、思い出になってしまった二人の、ささやかな祝福。
【登場人物】
田中琴葉
プロデューサー
【推薦コメント】
大人になった田中琴葉の雰囲気が染み渡るような一作です。彼女がお酒を飲む仕草から、遠くから聞こえるBGMまで、二人が言葉を交わす場がしっかりと形作られています。後半、場面が冬の道に変わり空間が開けることで、ずっとため込んでいた感情が空に飛んでいき、彼女の感情がより濃く表現されていていました。かつての思い出はきらびやかで、それでも二人には今が、これからがあることが、ささやかな祝福であるように思えます。
短編小説8選は以上になります。
以下、拙作について少々。オススメする人でありながら、書いている人でもあるのです。
誕生日小説シリーズと銘打って、『アイドルマスターミリオンライブ!』のアイドル50人全員を対象に短編小説を執筆しました。どのアイドルの短編小説も、あります。自薦を二作だけ。
所恵美の誕生日小説。田中琴葉との距離を探すお話。
伊吹翼の誕生日小説。彼女を見つめるジュリアと、彼女の羽ばたき。
それでは、一作でも新たな短編小説との出会いがあることを願いつつ。
こちらからは以上です。