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『雪のゆりかご』へ贈る推薦文。

同人誌感想

 ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ。もっとも障害物を征服するには、人間に、道具が必要だ。人間には、鉋が必要だったり、鋤が必要だったりする。農夫は、耕作しているあいだに、いつかすこしずつ自然の秘密を探っている結果になるのだが、こうして引き出したものであればこそ、はじめてその真実その本然が、世界共通のものたりうるわけだ。これと同じように、定期航空の道具、飛行機が、人間を昔からのあらゆる未解決問題の解決に参加させる結果になる。
――アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「人間の土地」

 そういえば「星の王子さま」は読んだことがないサイトロです。
 さて今回は、とある小説同人誌のご紹介。思い立った理由としては最近ダウンロード販売が開始されていたこと、そして、このクリスマスイブという日が、物語にとってとても重要であるからです。
 タイトルは『雪のゆりかご』。作者は吉﨑堅牢氏。pixivにも小説を投稿しており、最近の作品では七尾百合子と高山紗代子の一幕が微笑ましい『鯛焼の女』がオススメです。同人誌としては『ユは百合子のユ』、そして私も参加している七尾百合子小説アンソロジー『百合の名前』等があります。本作は両作の間、2015年の9月に開催された『歌姫庭園8』が初出の同人誌です。ちなみに私は即座に通販で注文しました。
 本作の魅力が少しでも伝わり、最後にはダウンロードにて購入して頂けることを願いつつ、始めていきましょう。

 
 先ずはあらすじを販売ページより引用。

――ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。 七尾百合子は彼女のステージに何を学ぶ。〈詩人〉萩原雪歩を追う七尾百合子が北沢志保・高山紗代子と結成したトリオユニット〈雪のゆりかご〉の活動を描く。765プロダクション入所試験「ファースト・ステージ」、格闘舞台「ファースト・ステップ」、雪の降るクリスマスイブに憧憬を現実へと変えた「雪のゆりかご」の全三篇。いつかの彼女の誕生日を綴る「舞台裏より愛を込めて」も再録。

 上記の通り、本作は全三編から成る物語です。七尾百合子を中心として、北沢志保・高山紗代子を合わせた三人のユニットが出来るまで、そして花開くまでが描かれています。彼女たちの初々しい姿が、レッスンを、そして本番を経て徐々に洗練されていく様が、瑞々しく描かれています。
 全体を通して特筆すべき事項として、この物語ではプロデューサーという存在は極めて姿を潜めています。アイマス、更にはミリオンライブ! というコンテンツは、常に彼とアイドルの関わりを描いています。今回その視点・存在はあくまでも、彼女たちを見守る影に徹しています。その効果は、早速第一編から現れます。

ファースト・ステージ

 七尾百合子のファースト・ステージ。それは、即興ユニットでの十五分間のステージだった。突然のステージに戸惑う中、北沢志保・高山紗代子の三人は、ステージを創り上げていく。それは、誰もが知っている、縞々模様の猫が出てくる、絵本の物語――――。

 緊張の百合子、冷静な志保、そして二人を諌める紗代子の三人のやりとりが微笑ましい一編。特に話し合いの調子をきちんと整える紗代子の陰ながらの努力が素晴らしい。物語を持ちだした辺りで志保がちょっと意地になったりする辺りも可愛らしくて良かったです。
 先述しましたが、プロデューサーは最初に一言ステージの話を告げるだけです。それは、彼女たちがまだアイドルではなく、オーディションに残った候補生だからです。それ故、最初のプロデューサーは彼女たち自身となったのです。自分たちの長所、短所は何か。それをどうステージで昇華していくか。初々しさや迷いもありつつ、彼女たちなりのステージが組み上がる様が、とても素晴らしいです。いちプロデューサーとして、こういう風にアイドルたちを見つめていたいと気持ちを改める次第です。

ファースト・ステップ

 ユニットとして始動した三人の次なるステージは、ボクシング。煌々と照りつけるライトに、四角いリング。その中で紡がれゆく言葉、そして、打ち勝つべき相手とは。

 ミリオンライブ! には『昂れ! アイドルファイト』なるイベントがありました。格闘ゲーム『鉄拳』ともコラボしたり、北沢志保がドヤ顔を披露したりと中々に面白かったイベントでした。翌々考えると、アイドルたちが何故リングで戦っているんだろうとは思いますが。
 本作もそのイベントを汲んで、実際に闘うものだと、このサンプルを見た時に思いました。実際には、ボクシングはボクシングでも、『詩のボクシング』でした。これ、実在する競技なんです。これは確かに、アイドルという表現者に相応しい競技です。
 ここで描かれるのは、『先輩と後輩』です。アイドルとして、そして競技者として先輩である萩原雪歩が、後輩である三人を導いていく。落ち着いた調子で、しかしおどおどせずに言葉を紡ぐ雪歩には、先輩としての貫禄がありました。こういった所も、プロデューサーという頼れる存在を廃したからこそ、先をゆく彼女の姿が際立ったのだと思います。

雪のゆりかご

 アイドルとして活躍する機会が増えてきた三人。しかし、百合子にはファースト・ステージに置いてきた<忘れ物>があった。そこに舞い込んでくる、バースデーライブ出演の依頼。果たして、<忘れ物>は見つかるのか。

 迷いが垣間見える百合子に対して、二人が時に厳しく、時に優しい様がきちんと描かれています。アイドルは時に仲間であっても、決して慣れ合うばかりではない。そんな事を思い出させてくれました。思いはどうあれ彼女たちは仕事をしている訳で、そこには甘えや妥協、ましてや迷いを持ったままでは、叱咤されても仕方がありません。
 けれど百合子にとっては、大事な<忘れ物>でした。ファースト・ステージと、それからのステージとの違い。一度目と二度目からの違い。誰しも、何かを始める一歩目というものは、忘れられないものです。僕は忘れましたが。
 さてここで、冒頭の言を思い出して下さい。
『そして、このクリスマスイブという日が、物語にとってとても重要であるからです。』
 この日は、とあるアイドルの誕生日です。
 そのアイドルは、物語に於いて重要な役目を担っています。
 七尾百合子・高山紗代子・北沢志保によるユニット、<雪のゆりかご>は、誰にステージを贈るのか。その到達点、七尾百合子の<忘れ物>への返答を、どうか読んで下さい。

 

yobitz.booth.pm

 成海七海様による美麗な表紙にも注目していただきたい『雪のゆりかご』。如何でしょうか。この日に相応しい物語となっていること間違いありません。いち読者として、太鼓判を押します。
 描かれているのは、『アイドルマスターミリオンライブ!』という枠に収まらない、アイドルたちの物語です。プロデューサーは影となって彼女たちを支え、生き抜くのはあくまで彼女たちの努力や実力次第。その痛みも迷いも全てが彼女たちのもので、だからこそ答えを出した後のステージが輝いて見えてきます。
 長編という訳でもなく、おそらく三十分程度で読める文量です。是非是非、ご購入をお願い致します。
 こちらからは以上です。